国家人権委員会は、脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病と闘いながら、身体障害者の人権擁護に一生を捧げた故・陳俊翰博士(1983年6月15日—2024年2月11日)に敬意を示し、その研究成果を讃えるため、陳俊翰博士がアメリカの大学で完成させた博士論文『EQUALITY, NON-DISCRIMINATION AND REASONABLE ACCOMMODATION: THE UNITED NATIONS CONVENTION ON THE RIGHTS OF PERSONS WITH DISABILITIES (CRPD) THROUGH COMPARATIVE PERSPECTIVES』(平等、無差別、および合理的配慮:比較法的視点から見た国連の障害者権利条約)の台湾華語(繁体字)翻訳を完成させた。
国家人権委員会は、当初この論文を印刷して出版し、台湾全土の図書館に配架したり障害者支援団体に配布することを予定していた。しかし、立法院(国会)で野党主導による今年度予算の大幅削減が行われ、当面の出版が不可能となった。このため、論文の台湾華語訳を公式サイトで全文公開することを決定。論文が広く読まれ、そして活用されることを期待している。
論文の翻訳にあたっては『障害者権利条約』(CRPD)に精通した翻訳者に翻訳を依頼。また、中央研究院法学研究所の廖福特教授に訳文の査読を依頼した。最後は、陳俊翰博士に長年付き添い、その研究を支えてきた陳俊翰博士の母親に内容を確認してもらい、陳俊翰博士の研究の趣旨と成果がより正確に伝わるよう努めた。この作業には約1年を要し、2025年2月にようやく完了した。
陳俊翰博士は生前、国際人権法や身体障害者政策と法律について造詣が深く、2014年に米ハーバード大学法学大学院を卒業し、2022年には米ミシガン大学で法学博士(S.J.D)の学位を取得した。その博士論文『EQUALITY, NON-DISCRIMINATION AND REASONABLE ACCOMMODATION: THE UNITED NATIONS CONVENTION ON THE RIGHTS OF PERSONS WITH DISABILITIES (CRPD) THROUGH COMPARATIVE PERSPECTIVES』は、比較法の視点から『障害者権利条約』(CRPD)の核心概念である平等、無差別、合理的配慮(リーズナブル・アコモデーション)について論じたものだ。内容は序論、平等と無差別の理論、身体障害の理論モデルと方法、国連『障害者権利条約』(CRPD)と合理的配慮、アメリカにおける合理的配慮、欧州評議会と欧州連合(EU)における平等と無差別、結論の全7章から成り、台湾華語訳は合計331ページに及ぶ。国家人権委員会はこの論文について、「台湾が『障害者権利条約』(CRPD)を推進し、実践する上で非常に価値のあるもの」と評価している。
陳俊翰博士は先天性の脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病と闘っており、全身の中で動かせるのは目、口、そして小指一本だけという状態だった。そんな中でも国立台湾大学、米ハーバード大学、ミシガン大学で法律を学び、最後は博士の学位を取得。台湾大学在学中に司法試験(弁護士)と会計士試験に合格。米国でもニューヨーク州の司法試験に合格。人権派弁護士としても身体障害者の人権擁護活動に長年携わり、学業を終えて帰国してからは国家人権委員会の会議やイベントにしばしば参加し、貴重な意見を提供してきた。2023年に中央研究院(台湾における最高学術研究機関)で博士研究員として迎えられ研究を続ける中、2024年1月に行われた立法委員(国会議員)選挙で与党・民進党の擁立を受けて比例代表選挙に出馬したが落選。2024年2月11日、風邪からの合併症で40年の生涯を終えた。
論文の台湾華語(繁体字)版はこちらから、英語版はこちらから全文ダウンロードできる。